「マンガ学部」「マンガ学科」…大学で学ぶ意義は? 気になる卒業後の進路は…

2024/06/14

■現役大学生による 学部・学科紹介

マンガを日本文化として研究対象とする大学が増えています。世界から注目されるポップカルチャーとして日本のマンガの評価が高まり、文化論としての学問研究を深める動きもあります。実技を身につけられる「マンガ学部」「マンガ学科」を設置している大学もあります。大学でマンガを学ぶことには、どのような意義があるのでしょうか。(写真=東京工芸大学提供)

新世代はSNSで作品をアピール

マンガに関連した学部を日本で初めて設置したのは、2006年に設置された京都精華大学のマンガ学部です。日本で唯一のマンガ学部で、数多くのマンガ家を育ててきました。マンガ学部には、ストーリーマンガコースと、キャラクターデザインコースの他に、新しい時代に対応した新世代マンガコースもあります。いまのマンガは雑誌で読むだけではなく、スマホやタブレットで読まれていて、縦スクロールのWebtoonスタイルも広がってきています。その変化にともない、マンガ家としてデビューするのは雑誌の新人賞を受賞する形だけではなくなっているため、同コースではSNSで作品をプロデュースして、自分をアピールする方法も学ぶということです。また、同大と京都市が共同して開館した日本初のマンガ博物館には、明治時代の雑誌や戦後の貸本などの貴重な歴史資料から、現代の人気作品など約30万点が所蔵されています。

学部ではなく、専攻コースの一つとしては、大阪芸術大学、京都芸術大学などにも設置されていて、いずれも実作だけではなく、マンガ文化なども学べる点が特徴です。

一方、明治大学国際日本学部や学習院大学大学院人文科学研究科では、マンガやアニメなど日本のポップカルチャーを研究する科目や講座があります。少女マンガからジェンダー論を議論し、アニメの聖地巡礼やオタクの変遷などを語り合いながら、新しい日本文化の学問として論文が書かれています。

視野を広げるために大学へ

東京工芸大学芸術学部のマンガ学科は、2007年に設置された東日本では初のマンガ学科です。「ストーリーマンガ」「キャラクターイラスト・カートゥーン(ひとコママンガ)」「マンガ研究・編集」という、3つの分野の専門技術や知識を身につけることができます。マンガ学科4年の遠藤駿作さんは、イラストレーターになることを目指して、同大学に入学しました。イラストレーターになるための技術は、専門学校などでも学べますが、大学を選んだのはなぜでしょうか。

「中学生のころからイラストレーターになることが夢で、美術系の高校に進学しました。ただ、絵を描くことばかりを続けていると、視野が狭くなり、いい作品を描けないと感じるようになりました。大学では幅広い分野の教育が受けられるので、作品を制作するうえで役に立つのではないかと思いました」

東京工芸大学では、芸術学部の全学科の学生が共通して、芸術学や美術史、経済・経営学などの社会科学、文学などの人文科学、外国語などの授業を受けます。

マンガ学科4年の遠藤駿作さん(写真=東京工芸大学提供)

イラストレーターを目指していた遠藤さんですが、入学早々にマンガを描く面白さに気づいたといいます。
「1年次前期の授業で、16ページのストーリーマンガを描くという課題を出されました。生まれて初めてマンガを描いたので苦労しましたが、自分が作ったキャラクターが動き出すのが面白かったです」

同時に未熟さも実感し、より意欲的に授業に取り組むようになりました。コマ割りやストーリー制作といった基本から、デジタルマンガの表現方法を身につける授業まで、マンガ制作に関するさまざまな授業を受け、技術を磨いていきました。

「出張編集部」に作品を出す

印象に残っているのは、設定に合わせてキャラクターイラストを制作する授業です。

「それまではイメージだけでキャラクターをつくっていたのですが、例えば『魚』という設定であれば、まず徹底的に観察して調べることが大事だと教わりました。あとは人が好印象を抱きやすい色についても勉強になりました。自分の好みに偏っていたところがあったのですが、見る人を意識するようになったと思います」

マンガ学科にはマンガ研究や評論などに必要な2万冊以上のマンガ作品が保管されている(写真=東京工芸大学提供)

マンガ文化を学ぶ授業も制作の刺激になりました。

「日本の巨匠と呼ばれるようなマンガ家が、実は海外のアニメ作家の影響を受けているといったことを学びました。天才と呼ばれるような人のオリジナル作品でも、何かしらの作品からインスピレーションを受けているのだと感じました」

年に1~2回、各出版社のマンガ雑誌編集者が大学に来る「出張編集部」では、学生たちがプロの編集者にマンガを講評してもらう機会があります。出版社ごとに分けられた教室に編集者がいて、学生が作品を持っていきます。
「編集者によって見方が違うので、勉強になりました。評価される作風が出版社によっても異なり、自分の作品がどこの出版社に向いているのか、ということがわかったのも、いい経験でした」

電子書籍の普及に合わせて、デジタルマンガの表現方法を習得する授業も(写真=東京工芸大学提供)

出版社に作品を持ち込み

大学の課題だけではなく、授業の合間に作画室を利用して個人的にマンガを描くようになり、2年次にはプロのマンガ家になることを決意しました。きっかけになったのは、出版社へのマンガの持ち込みでした。

「作品を制作していると先生から、『出版社に持ち込んだほうがいいよ』とアドバイスされました。編集部に行って、目の前で作品を見てもらうときは緊張しましたが、そこでほめてもらい、そのまま編集者の方が担当についてくれることになりました」

3年次からは、プロのマンガ家でもある夢来鳥(むくどり)ねむ教授の研究室に所属。ストーリーマンガの技術をさらに磨き、夏には「第17回月刊少年マガジンコミック大賞デビュー」(講談社)の奨励賞に選ばれました。

「そのときはペンネームの茉離阿(まりあ)しか公表されませんでしたが、うれしかったです。次の第18回では佳作に選ばれ、アプリやウェブ上で作品が公開されました。作品が公開されるのはもちろんうれしいですが、まだまだ反省点もたくさんあります」

プロのマンガ家になると決めてからは、作品を生み出す苦しさを感じているそうで、「同級生たちと徹夜で作業したり、お互いの作品を見せ合ったり。同じ夢を持つ大学の友達と関わっている時間が楽しいです」と語ります。現在は卒業制作に取り組んでおり、いずれマンガ雑誌で連載を持つことを目標にしています。

卒業後の進路はさまざま

東京工芸大学のマンガ学科には、多くの学生がプロのマンガ家やイラストレーターを目指して入学しています。夢来鳥教授によると、遠藤さんのように在学中から出版社に作品を持ち込み、デビューする学生は決して珍しくありません。もちろん卒業後、企業で働きながらマンガを描き続ける人もいれば、マンガは趣味と割り切って仕事にはしない人もいます。

「私がここの教員になった2010年ごろは『プロのマンガ家を目指すなら就職したら負け』の雰囲気がありましたが、今は学生の意識が変わっています。就職して生活の基盤を築いたうえで、マンガ家を目指す学生が増えているように感じます」(夢来鳥教授)

卒業後は、出版社などマンガ関連の仕事に限らず、クリエイティブな創造力を生かしてさまざまな企業で活躍します。

「マンガ制作というのは、1人で何役も担うような作業です。ストーリーを考えて、絵を描き、それを1つにまとめます。そうした能力を生かしてアニメやキャラクター、ゲーム、アプリの制作、CM制作、イベント企画など制作系の会社に就職する学生が多いです」(夢来鳥教授)

東京工芸大学芸術学部マンガ学科の夢来鳥ねむ教授。プロのマンガ家であり、研究室では少年マンガを中心に指導する(写真=東京工芸大学提供)

日本文化として定着しているマンガを大学で教えることについて、夢来鳥教授は「責任を感じる」と話します。
「伝統を大事にしつつ、最新の技術を取り入れた指導で、学生の可能性を広げていきたいです」

国内最大級の蔵書数を誇るマンガ専門図書館、明治大学「現代マンガ図書館」(写真=明治大学提供)

さらに、独立した学部学科やコースでなくても、メディア文化論などの講義で、マンガは数多く取り上げられています。日本を代表するポップカルチャーとして、マンガは世界から注目を浴びています。大学でマンガを学ぶことは珍しいことではなくなっていて、現代の貴重な日本文化としての研究分野になってきています。

>>【連載】現役大学生による 学部・学科紹介

(文=中寺暁子)

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